日商簿記を学ぶためのテキストの選び方

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独学で日商簿記の資格取得をしようとしたときに「テキスト選び」はとても重要です。特に簿記はさまざまな出版社から数多くのテキストが出ていて「どれを使えばいいのだろう?」と迷うかと思います。これからの簿記学習の大事な相棒探し。今回はそんなお悩みを5つのポイントから解説します!

【1】そもそも今の時代、紙のテキストは必要なの?

ひと昔前まで、日商簿記を独学で学ぶためには「紙のテキストを買う」という選択肢しかありませんでした。しかし最近は、資格の勉強方法もどんどん電子化が進んでいます。実際、世の中には電子書籍はもちろんのこと、簿記学習のためのWebサイトや無料で利用できる問題集アプリ、YouTubeの解説動画など「紙のテキスト以外」の選択肢が次々に登場しています。
しかし、ここで声を大にしてお伝えしたいのは「効率的な簿記の独学には、紙のテキストは必要不可欠!」ということです。

【2】「簿記の勉強は紙のテキスト派」が多い理由

理由は意外と単純です。「簿記の学習は習うよりも手を動かすもの」だからです。とにかく手を動かして紙に仕訳や金額を書き込み、するべき作業を体で覚えこむのが簿記なのです。実際の試験時も計算用紙が配られ、手元で仕訳や計算を書いて問題を解きます。
だから、スマートフォンやタブレットを片手に何かを学ぶことが当たり前になった現代でも、簿記だけは紙のテキストが選ばれる。そこには、書き込みや計算は「紙のほうが早い」という常識があるのかもしれません。

【3】日商簿記のテキスト選びに欠かせない5つのポイント

次に、独学で合格を目指す方にぜひ知っておいていただきたい、テキストを選ぶ時のポイントをお伝えします。特に簿記はさまざまな出版社から数多くのテキストが刊行されているので、5つの見極めポイントを解説していきます。

(1)「最新情報を反映しているか」を確認する

日商簿記の試験内容は、実は毎年変化しています。国際会計のルールや国内の法改正にあわせて、ルールや試験範囲が変更になるためです。

例えば最近では、2021年4月に国際会計基準に合わせる形で「収益認識に関する会計基準」が日本でも適用されました。試験への影響としては、2022年から、日商簿記検定問題にも出題されており、戸惑った人も多かったはずです。

簿記のテキストは、例年4月から新範囲での出題になるため、2月〜3月頃に最新の状況が反映された改訂版が刊行されます。テキストを選ぶときは、奥付(本の最後のページにある、本のタイトルや発行年月日などが記載されている欄)を確認して、必ず最新版かどうか確認してください。

(2)「簿記の全体像を捉えやすい構成か」を確認する

最近の試験問題では、簿記一巡(簿記の流れ)を把握していないと解けない問題が増えてきました。そのため、「取引」→「記帳」→「決算」→「財務諸表の作成」という流れのどの部分を今学習しているのかが分かりやすい構成になっているテキストを選ぶことが大切です。
例えば、章ごとに全体の流れの中でどの部分の話をしているのかがビジュアルで分かるようになっているかどうかは見極めるポイントになります。ぜひ確認してみてください。

(3)「自分の学習タイプにあっているか」を見極める

同じテキストを見ても「簡潔にまとめられていて頭に入りやすい」という人もいれば、「説明が少なすぎて、さっぱり理解できない」という人もいます。どんなテキストが分かりやすいかは人によって千差万別です。できれば実際に本を手に取ってみて、自分に合いそうかどうかを見極めるのがベストです。

ただ、いざ簿記のテキストを選ぼうとすると、「文字が大半を占めているもの」「積極的にカラーを使って理解を促しているもの」「イラストがたくさん使われているもの」などさまざまな種類があることに気がつくはずです。

どんな体裁のものが自分に合っているのかを判断する上で、「自分の学習タイプ」を考えてみましょう。

①「数字は苦手……」基礎からしっかり取り組みたいタイプ

このタイプは内容が難しく感じない、初心者にもわかりやすいテキストが合っています。
例えば、イラストつきで解説してくれるもの、簿記一巡をストーリー仕立てで解説してくれるもの、フルカラーで図解や表がわかりやすいものなどがおすすめです。

特に初心者の方には、「図解」や「表」が簿記を理解する上で大きな手助けとなります。文字だけで「『収益』から『費用』を引いたものが『利益』です」と説明されるより、下のような簡単な図が付いていた方がより概念を理解しやすいものです。パラパラとめくって分かりやすいビジュアルが入っているかどうかを確認してみてください。

②「とにかく早く合格したい!」試験に向けて短期間で学習したいタイプ

このタイプは試験合格に特化して、効率よく合格点が取れるような構成になっているテキストが合っています。
例えば、テキストと問題集が一体型となっていて1冊で完結できるもの、出題頻度がランク表示されているもの、出題頻度の低いものを別途のコラムに分けて扱っているもの、などがおすすめです。
ただ、効率よく合格点が取れる構成の本を作るためには経験と知識を必要とします。そのため、信頼できる書籍かの判断は、そのシリーズが1級まで出ているかを見て頂くのも良いと思います。

③「キャリアに活かしたい」長期的に学習したいタイプ

このタイプは細かい論点まで試験範囲をまんべんなく網羅していて、実務にも活かせるような情報が載っているテキストが合っています。
例えば、スクールの公式テキストになっているもの、側注やコラムが充実しているもの、テキストにリンクした問題集があるもの、などがおすすめです。

当然、上位級や上位資格・関連資格を考えている方も多いでしょうから、1級はもちろん、税理士や会計士などの上位資格、FPや中小企業診断士といった関連資格までカバーしている出版社かどうかを見て頂くのも良いと思います。

このほか、テキストの冒頭の部分にも、どんな方向けのテキストなのか記載されていることが多いので参考にしてみてください。

(4)「ネット試験に対応しているか」を確認

日商簿記にも2020年12月からネット試験が導入されています。それ以降、日商簿記3級・2級のネット試験受験者数はどんどん増えていて、ペーパーテストを上回る勢いです。ネット試験が人気な理由は、日程調整のしやすさや合否がすぐわかるという利便性であることは間違いないでしょう。東京商工会議所管内では、日商簿記3級・2級について、2024年度には従来のペーパーテストが廃止になり、ネット試験のみとなるということも決まっています。

簿記を理解する上では、紙のテキストで学習を進めていくことが必要不可欠と記事の冒頭でお伝えしました。それに加えて、ネット試験で受験される方は「試験対策」として、実際にパソコンに向かって練習する必要があります。

簿記のテキストの多くは、付録として動画やアプリなどのサブ学習ツールがついてきます。中でも、ネット試験と同じ環境(画面)で試験問題の演習ができる「模擬試験プログラム」がついている書籍がおすすめです。

よい模擬試験プログラムは問題内容が充実していることはもちろん、画面のデザインや色も、本番の試験とまったく同じになるように作り込まれています。特にパソコンに慣れていない方にとっては、「半角・全角キーの切り替え」などの細かい部分から本番と同じ条件で試せるので、心強い味方となってくれることでしょう。

(5)「どんな出版社から出ているテキストか」を確認

ここまではテキストの内容に関するポイントを紹介してきましたが、最後のポイントは「出版社」です。これは簿記に限ったことではありませんが、資格書を選ぶ時は出版社が大事なポイントになります。なぜならば、小説のように「出版社に関わらず、良いものは良い!」という単純なものではないからです。資格書であれば、最新情報や法改正に対応している、毎年改訂版が出ているなど、しっかり資格書に力を入れている出版社かどうかを見極めるのが大切です。

簿記でいえば、「1級のテキストまであるかどうか」は分かりやすいチェックポイントになります。簿記の資格は入門編の3級から始まり、最難関の1級まで存在します。ここで注意すべきは、3級や2級のテキストは出しているものの、1級のテキストは出版していない会社があることです。

確かに1級と3級では難易度や出題範囲も大きく異なるため、初心者向けのテキストのみ出版する会社もあるでしょう。しかし、最難関である1級のテキストが出版できるということは、それだけ簿記に精通したレベルが高いスタッフがそろっている出版社である証拠です。

毎年改訂版が出ていて、1級までテキストがある出版社であれば、3級のテキストの内容も信頼できると言えるでしょう。

【4】まとめ

資格取得のための学習において、自分に合ったテキストを選ぶことは最初の大切なステップです。「最新情報を反映している」「簿記の全体像を捉えられる」「自分の学習タイプに合っている」「ネット試験の練習ができる」「出版社を見極める」の5点で、簿記独学のための「良い教材の選び方」を解説させていただきました。簿記の学習で悩んでいる方の一助になることを願っております!