独学でめざす
公務員試験【憲法】

公務員試験において、憲法はとても大事な科目です。とはいえ、はじめて法律科目を学習する方や試験学習じたいに不慣れな方には難しく感じることがあるかもしれません。
このページでは、 公務員試験の中での憲法の位置づけや、学習のヒントについて紹介していきます。

公務員試験における憲法の位置づけ

憲法は、専門択一試験ではほぼ確実に出題される科目で、主要科目のひとつとされています。
憲法以外にも民法や行政法など、ほかの法律科目の出題もありますが、その中でも憲法は最初に学習することが望ましい科目のひとつです。
これは、学習内容の重なり具合から、先に憲法を理解しておくと都合がよいのと、単純に学習の難易度が比較的易しいものだとされているためです。

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また、教養択一試験(または基礎能力試験)で出題のある社会科学の法律分野では憲法の知識が問われますし、専門記述試験でも憲法の出題がある受験先も存在します。

憲法では「条文」・「判例」が重要

これは憲法に限らないことですが、法律科目の学習では「条文」・「判例」がどのようなことを言っているかを押さえるのが重要です。
「条文」というのは、憲法や他の法律を構成している、実際の内容・中身のことです。
「判例」というのは、実際に起こった裁判の中で、裁判所が下した判断のことです。

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憲法の学習に出てくる判例というのは、実際に争われた裁判の中で、裁判所が憲法の条文に関連して何らかの判断を下したものということになります。

では、「条文」や「判例」を「押さえる」とは、具体的にどのような学習をすることをいうのでしょうか?

独学を意識した公務員試験・憲法の学習法

(1) 条文や判例を暗記する必要はない

ひとまず択一試験にしぼって考えるなら、公務員試験の基本は、問題文の記述が正しいのか間違っているのかがわかるかどうかを試すものだといえます。
日本国憲法は「前文」と103の条文でできていますが、この条文をすみずみまで暗記しておく必要はありません。問題文に書かれていることが、条文の規定と比べて正しいのか間違っているのかがわかればいいのです。
同じように、憲法を学習するとざっと100くらいの判例が出てきますが、この判例についても裁判所が下した判決文の内容を読み込んで覚える必要はありません。

(2) 知識系の科目は「知っているかどうか」が問われている

公務員試験にはたくさんの科目が出題されますが、主に❶あることを「知っているかどうか」を問う科目、❷それに加えて「知識やテクニックを正しく実践できるかどうか」を問う科目(計算などを伴う科目)に分かれます。
憲法を含む法律科目は広い意味で、❶の知識を問われる科目に当たります。
具体的に、ある知識があれば過去問が解ける、ということを見ていきましょう。

(3) 条文を押さえて問題を解く

公務員試験の憲法を対策するためのTAC出版の書籍『公務員試験 ゼロから合格 基本過去問題集 憲法』から、条文の内容を学習する部分を引用しましょう。

公務員試験 ゼロから合格 基本過去問題集 憲法の引用画像

ここでは、憲法73条という条文が冒頭に掲載されています。この条文は、日本の「内閣がどのようなことを行う存在かということを定めているもので、1号~6号で、その具体的な役割を箇条書きしています。
先ほどの話にあったとおり、この条文の内容を暗記する必要はありません。

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また、試験によく問われる条文もあればほとんど問われない条文もあるので、内容を押さえるのも試験に出るところだけでじゅうぶんです。

ここでは、73条1号に注目しましょう。73条1号は「法律を誠実に執行し、国務を総理すること。」とあります。また、この条文について、次のような解説が続いています。

内閣は国会が制定した法律を誠実に執行しなければなりません。アメリカ大統領のように拒否権はないので、制定された法律が憲法に違反するようなものだと内閣が判断しても、執行すべきことは変わりません。

どうでしょうか。73条1号をそのまま受け止めるだけだと当たり前のことが書かれているようで、いまいち何が大事なのか引っかかるポイントがないような気がします。
ただ、一度法律として定められてしまったものについては、どんなにひどい内容であっても、たとえ憲法に違反するようなものだと思われても内閣はそれを執行しなければならない、というのがポイントなのです。

この内容は、例えば試験問題ではこのように問われることになります。次の記述は正しいでしょうか、誤りでしょうか。

内閣は、憲法73条1号により法律を誠実に執行する義務を負うが、他方、憲法99条により憲法尊重擁護義務をも負うので、内閣が違憲と解する法律が国会で成立した場合には、一時的であれば、その執行を停止することができる。

裁判所2013

内閣は法律を誠実に執行しなければならない、と憲法で定められているけれど、憲法を守らなければいけない義務もあるので、成立した法律が憲法に違反していると思われる場合は執行を停止してもよい、と書かれています。
先ほどの73条1号の後の解説を読んでいればかんたんにわかりますね。この記述は誤りです。内閣は、成立した法律がどんなにひどくても、たとえ憲法違反だと思われるようなものであっても、執行しなければならない、というのが73条1号の規定なのです。

ただこの問題、何も知らずに正しいか誤りか判断しなさいといわれたらどうでしょうか。あるいは、73条1号の内容だけは知っていても、「制定された法律が憲法に違反するようなものだと内閣が判断しても、執行すべきことは変わりません」というように、条文の意味するところについて強調された記憶の仕方をしていなかったらどうでしょうか。
どちらの場合も、何となく試験問題がまともなことを言っているように見えてしまうかもしれない、そんな気がしませんか?
「条文を押さえる」というのは、こういうことなのです。何かを知っているかどうかというのも、こういうことなのです。この場合は、「内閣は、たとえ憲法違反だと思われるような法律でも、成立したら執行しなければならない」ということを知っているかどうかが問われているのです。

(4) 判例を押さえて問題を解く

判例についても基本的な考え方は同じで、裁判所がどのような判断をしたのかを知っておけば問題を解くことができます。同じく、『公務員試験 ゼロから合格 基本過去問題集 憲法』から、判例の内容を学習する部分を引用しましょう。

公務員試験 ゼロから合格 基本過去問題集 憲法の引用画像

判 例

最大判昭53.10.4:マクリーン事件

〈事案〉
  • 日本に在留資格ある米国人が、日本国内でデモ行進に参加したところ、それを理由として法務大臣が在留期間の更新不許可処分を行ったので、その取消しを求めて出訴した。
〈解説〉
  • 外国人がデモ行進に参加することは、我が国の政治的意思決定またはその実施に影響を及ぼす活動ではない。
  • にもかかわらず、在留期間の更新不許可処分を判例は合憲とした。
  • なぜなら、そもそも外国人には日本に在留する自由が保障されていないので、その外国人を日本に在留し続けさせるかどうかは、法務大臣の自由裁量に委ねられているからである。
〈判旨〉
  • 外国人にはそもそも日本国に在留する自由は保障されない。
  • そのため、在留期間中の憲法の基本的人権の保障を受ける行為を在留期間の更新の際に消極的な事情としてしんしゃくしてもよい
  • デモ行進の参加は、憲法の保障を受ける外国人の政治的行為であったが、在留更新不許可処分は合憲である。

判例を紹介する項目は、〈事案〉、〈解説〉、〈判旨〉の3つに分かれています。
〈事案〉というのは事件のあらまし、出来事の概要です。誰がどういう事情で訴えを起こしたのかをつかんでおきましょう。

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件名にもあるマクリーンは、日本に在留していたアメリカ人の名前です。彼が日本の在留期間の延長を申請したら拒否されてしまったのですが、その理由が彼の政治的活動だったことから、マクリーンさんが「これはおかしい、申請の拒否を取り消してくれ」と訴えたのです。

〈解説〉のところは、裁判所の判断の内容をかいつまんで説明したものになります。「日本にとって都合のよくない政治活動をしていたから、外国人の在留を延長させない」、というのは不当な処分のように思えますが、〈解説〉によれば裁判所はこれを合憲(憲法違反ではない)としました。
なぜなら、そもそも外国人が日本に在留する自由は憲法上保障されていないからだ、とあります。もともと必ず在留できるわけではないのだから、自由な裁量で延長申請を拒否しても問題ないのだ、という説明です。

〈判旨〉のところは、ほぼ〈解説〉と同じことが繰り返し書かれていますが、こちらは裁判所の判決文に近い文章で記述しています。なぜ、同じような内容を2通りの文章で読み込むのでしょうか
〈判旨〉の2つ目、「在留期間中の憲法の基本的人権の保障を受ける行為を在留期間の更新の際に消極的な事情としてしんしゃくしてもよい」は、いかにも裁判所らしい、わかりにくいフレーズですね。
日本に在留する外国人がデモ行進に参加するような行為は、基本的人権として保障されています。だとしても、そのような行為に参加していた事実があることを、「この人の在留期間更新を認めたくないな」と判断する材料にしてもかまわない、と言っているのです。
〈判旨〉のわかりにくいフレーズをあえて掲載しているのは、このフレーズがそのまま試験問題に出ることがあるからです。では、実際の問題を見てみましょう。

政治活動の自由に関する憲法の保障は、我が国の政治的意思決定又はその実施に影響を及ぼす活動など外国人の地位に鑑みこれを認めることが相当でないと解されるものを除き、我が国に在留する外国人に対しても及ぶことから、法務大臣が、憲法の保障を受ける外国人の政治的行為を、在留期間の更新の際に消極的な事情としてしんしゃくすることは許されない。

国般2013

記述が長くていやになりそうですが、先ほどの判例の記事を見たあとだと、「マクリーン事件のことを出題しているな」と判断できます。特に最後の「消極的な事情としてしんしゃくすることは許されない」という独特の表現が特徴的なのですぐわかります
さて、問題文は「しんしゃくすることは許されない」で終わっていますが、先ほど見たとおり、「しんしゃくしてもよい」が正しいので、この記述は誤りだとわかります。

こちらの記述も、何も知らずに問題文を読むと、政治的な背景によって外国人を不利益に処分することが許されるはずがない、だからこの選択肢は正しい、と思ってしまうかもしれません。
ただ、事案や判断理由などといっしょに判例を理解しておくことで、問題の記述のもっともらしさに惑わされずに判断することができるようになります。

point

このように、憲法の学習で判例を押さえるときには、次の3点を意識することで問題に対応しやすくなります。
❶どういう事案なのか ❷結論がどうなのか ❸その理由

独学でめざす公務員試験【憲法】・まとめ

いかがでしょうか。
憲法の問題は、条文や判決文をそのまま引用して(語尾だけ変えるなどして)作成されるため、記述の意味がわかりづらく、何となく難しく感じてしまうことがあるかもしれません。ただ、きちんと条文や判例の押さえどころを「知っておけば解ける」というのがわかってもらえたのではないかと思います。
きちんと要点を押さえたテキストがあり、過去問を使って覚えた知識を確かめる訓練を行えば、法律科目の学習がはじめてであってもじゅうぶんに合格をねらえます。がんばって学習してみましょう。

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